徳島視整体研究所

当店では「見る」ことから目の使い方を整え、身体の健康の維持や改善のアプローチをしています。1級眼鏡作製技能士

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 視神経炎に新タイプ 再発防ぐために維持療法が有効

 外から網膜に入った視覚情報は、脳に送られます。その役割を担う視神経というのは、網膜の神経突起が集合した直径1.5ミリの「視神経乳頭」と呼ばれる部位に始まり、「視神経管」を通って、左右の目の神経が交わる脳の中の「視交叉こうさ」と呼ばれる部位までを言い、おおむね40~50ミリの長さの脳神経です。

脳の病気「多発性硬化症」の一部と考えられていたが……

 この視神経の病気は、私の専門とする神経眼科の一大領域です。脱髄(後述)、虚血(循環障害)、感染、外傷、腫瘍などによる圧迫、薬物、遺伝、先天異常など、視神経症の原因は多岐にわたっています。

 この中で、ここ十数年で病気の概念が大きく変化し、新型ともいうべきタイプが登場したのが視神経炎です。

 視神経を形成する神経突起は、眼球を出ると周囲に髄鞘(ミエリン)という膜をかぶっていて、神経信号の伝達を効率化しています。視神経炎は、その髄鞘がはがれ落ちる脱髄によって生じます。脳内の神経線維で脱髄が生じる「多発性硬化症」の一部として出現するとの考え方が主流でしたが、脳内に病気はなく、視神経だけに病気が存在するケースも少なくありません。

細胞膜のたんぱく質に抗体ができ、重症化しやすいタイプ見つかる

 2004年に国際誌に発表された研究ですが、細胞膜に水を通すアクアポリンというたんぱく質のうち、アクアポリン4に対する抗体が何らかの原因でできると、視神経や脳・脊髄の神経線維を攻撃するというメカニズムが見つかりました。この研究には、日本の東北大学神経内科学グループも大きな貢献をしています。

 この抗体ができているケースは、視神経や脊髄に病気を起こしやすく、従来、日本・アジア型多発性硬化症といわれたものとほぼ同じ症状であり、欧米型の本来の脳内の多発性硬化症とは区別すべきだという考え方が受け入れられるようになりました。

 これに従って、視神経炎の考え方も影響を受けました。重症化しやすい視神経炎の中にアクアポリン4抗体の存在が証明されることがあり、いわば新型の視神経炎だと再認識されたのです。これは、全視神経炎の13~38%を占めています。

 

圧倒的に女性に多く、再発で視力低下の恐れ

 私たちのグループでは、このアクアポリン4の抗体陽性視神経炎の日本人69例107眼を検討し、その結果を先ごろ、英国の神経眼科学の雑誌に発表しました。

 それによると、62例が女性で男性は7例と、圧倒的に女性優位に発症する疾患でした。年齢分布は8歳から72歳と幅広く、平均は50歳でした。

 この病気は、いったん治療で症状がおさまったとしても再発の危険性が高く、再発すれば当然、視力がさらに低下します。この研究の対象者のうち、良い方の目の視力が0.1以下の割合は56.3%でした。つまり、半数以上は0.1以下に低下したままになってしまう厳しい病気なのです。

ステロイド薬の維持療法で再発率を低く抑えられる

 私たちの論文のポイントは、再発を防ぐために、急性期の炎症を鎮めた後も維持療法が必要かどうかを確認したことです。多くの臨床医が必要だろうという印象は持っていましたが、経験的なものであり、これまで根拠となる数字はありませんでした。

 この研究では、維持療法をしていないグループの年間再発率は0.39±0.51回だったのに対し、副腎ステロイド薬の維持量を投与し続けたグループでは、年間再発率が0.08±0.10回と減り、統計的にも有意な差が出ました。今後、このタイプの視神経炎では、可能な限り維持療法を続けるという選択肢が選ばれることになるでしょう。

 (若倉雅登 井上眼科病院名誉院長)