60歳以上の高齢者の失明原因第1位。加齢黄斑変性(AMD)とはどのような疾患なのか。その治療法、予防法は
加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)。文字どおり加齢などによって目の黄斑部(網膜の中心部分)に異常が生じる病気だ。 【動画】鹿を射止めた104歳のスーパーおばあちゃん 30年前は日本ではほとんど認識されていなかったが、欧米では失明の主要原因になっており、早くからその治療が重要視されてきた。 現在は日本でも視覚障害の原因の第4位を占め、60歳以上の高齢者の失明原因では第1位となっているという。 発症要因は加齢のほか、食生活の欧米化や喫煙、太陽やパソコンの光線に目がさらされる機会の増加など(酸化ストレス)。高齢化に伴い、今後患者数が激増することが懸念されている。 加齢黄斑変性(AMD)に代表される「網膜硝子体」の治療と予防の第一人者である聖隷浜松病院(静岡県)の眼科部長・尾花明氏は、光環境や食習慣が大きく変化している中で進行する高齢化時代に、生涯、視機能を保つためには意識的に眼の健康を気遣う必要があると言う。 中高年や加齢黄斑変性患者に向けて、加齢黄斑変性とはどのような疾患なのか、その最新治療や予防法について、自身の臨床経験や臨床研究成果を基に執筆したという尾花氏の新刊『「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル』(CCCメディアハウス)より、3回にわたって抜粋する。 この記事は第1回。 【ニューズウィーク日本版ウェブ編集部】
50歳のいま見ている世界と、20歳の頃に見ていた世界は違う!?
人はみな「歳はとりたくない」と願うものです。しかし、時間は平等に過ぎて、「老化」は確実にやってきます。 「老化」はカラダの機能を徐々に奪い、ついこの前までできていたことがだんだんできなくなります。また、五感が鈍り、好奇心を失うことで旅先の絶景を見ても感動が薄れてしまったり、新しい情報も処理できなくなって、最近耳にしたことはすぐに忘れてしまったりします。 「人生百年時代」と言われる昨今、この「老化」と上手に向き合うことは、現代人にとって必要不可欠な心構えと言えるでしょう。 いままさにその時を迎えようとしている人はもちろん、「まだ自分には関係ない」と考えている中年真っ盛りの人にとっても、「長い老後」を楽しく過ごすために正しい知識を身につけ、「老い」に向けて準備しておくことが大切です。 昭和33年生まれ、齢63を迎えた筆者も「老化」を実感する場面が増えてきました。 眼科医として見え方のトラブルを抱えた患者を何万人も診てきましたが、自分自身、遠近両用メガネがないと魚の小骨が見えず、プラスチックフィルムの継ぎ目がわからずイライラし、会議の配布資料を読むのもうんざりするようになり、患者さんがよく口にされる愚痴どおり、目から老化を実感するようになりました。 これらは水晶体の硬化と着色がもたらす調節力ならびにコントラスト感度の低下によるもので、いま見えている世界は、20歳の頃に見えていた世界とは違います。 変化は徐々に起こるため気づいていないだけで、見え方は確実に「老化」しています。桜のピンクも、菜の花の黄色も、新緑の緑も、みんな昔見えていた色とは違うのです。 ただし、水晶体の硬化と着色によるこのような現象は、すべて「生理的老化」であり、生物として当然の変化です。五感が鈍れば世間の嫌なことに感じるストレスも減るし、死に対する恐怖さえも和らぎ、よい面もあります。 ところが、ここに「病的老化」が加わると厄介です。人生に苦難がわき起こります。周りに迷惑をかけます。 眼の「病的老化」としては白内障、緑内障がよく知られていますが、もうひとつ、最近注目されているのが「加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration=AMD)」です。 AMDは欧米人の失明原因のなかでもっとも多く、古くから恐れられてきました。わが国でも近年増加していて、テレビ番組や新聞・雑誌で紹介される機会が増えました。「加齢」と名がつくように、その原因の根底には「老化」があり、誰もが発症する可能性のある病気です。 AMDは、眼球の底(眼底)にある網膜の、特に中心部分が壊れる病気で、まず、見たいところ(視野の真ん中)が見えなくなり、見えない範囲がだんだん広がっていく病気です。厄介なことにひとたび発症したら根治はできず、生涯、失明の恐怖と戦うことになります。 現在の患者数は世界中で約2億人、わが国では約90万人と推定されます。50歳以上の日本人の63人にひとり程度がAMDに苦しんでいることになります。
なんとしても避けたい、高齢になってからの視覚喪失
日本人の平均寿命(2020年)は女性が87.74歳、男性は81.64歳。女性は8年、男性は9年連続で過去最高を更新中であり、それぞれ世界1位と2位(1位はスイス)。 「人生百年時代」というフレーズが囁かれるのもうなずけます。それは、戦後の苦境から努力して這い上がった日本の輝かしい成果と言えるでしょう。 しかし、そう喜んでばかりもいられません。実際には、何不自由なく元気に百歳を迎えられる人は稀で、ピンピンコロリという理想を全うできる高齢者はほんのひと握りです。現実はそんなに甘くありません。 カラダの不調は、どこに生じても不便なものですが、とりわけ高齢になってからの視覚喪失は「非常に厳しい」と言わざるを得ません。 もともとカラダの適応力が低下しているうえ、努力する気力もわかず、結局、家の中に閉じこもってしまいがちです。そうやって、社会から遠ざかっていくことで認知機能が低下し、さらに閉じこもるという悪循環に陥ります。 私は、日々の臨床でそんな高齢者によく出会います。というより、眼科医はほとんど、そのような高齢者とのかかわりのなかで日常的に仕事をしているのです。 お年寄りの患者さんたちと話していて筆者が強く感じるのは、「目には寿命がある」ということを考えずに過ごしてきた方が多いということです。心臓や腎臓と同じように、目も老化によって機能が低下し、やがて寿命が尽きます。 もし、人生を終える前に目が寿命を迎えるとしたら、それはとても悲しく、残念なことではありませんか。 だからこそ、人生の晩節でもしっかりと見える目を保つために、「カラダの寿命」と「目の寿命」を合わせる必要があります。目が見えなくなってしまっては、もう遅いのです。 そうなる前に「眼の病的老化に対する知識を持って備えましょう!」というのが、本書の主旨です。災害に備えるのと同様に、目の寿命が来る前に対策を施して、ぜひみなさん、目の寿命を延ばしてください。 『「一生よく見える目」をつくる! 加齢黄斑変性 治療と予防 最新マニュアル』 尾花 明 著
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